注文をしていた鞄が出来上がりました。これまで、靴の注文はしたことがありましたが鞄は初めてで。納品してからテンション上がりっぱなしです。久しく忘れていた、オンリーワンのオーダーメイドが手元に来る喜び…
SUSIE SVELT(スージスヴェルト)とは
今回注文をさせていただいたのは、SUSIE SVELT(スージスヴェルト)
名古屋市に拠点を構える、鞄・財布を始めとする革小物のオーダーメイドショップです。
僕がこのお店を知ったのは、OboistさんのBlogから。
彼がオーダーした鞄を実際に見せてもらった時に、その美しさに驚いたものです。
これまでも、20代のうちに、革靴のビスポークや、スーツのMTMは経験したことがありました。しかし、正直鞄というのは中々食指は動かず。
というのも、「サイズ合わせ」の概念がなく、既製品でも十分にため息が出るような(時には嗚咽や嘔吐するような)作品があるのに、オーダーメイドするというのはどうも「優先順位が低い気がして」
この「『優先順位が低い』と言い切れない表現」というのが、ついぞ自分が抱き続けた感情です。
興味がある…しかしどこかポイントが自分の中で明確にならない。ぼやける。「答え」がない。
Oboistさんがもっている美しい鞄をBlogで見たり、目前にしたりしてなお、「グッと惹かれる。でも、もやぁとしたくぐもり」…やはり「優先順位は、低い気がする」
つまるところ「自分のものとして所有する」というヴィジョンがあまりなかったことも、要因であったのでは…と思っています。(エスパ―みたいなこと言ってますけどこういうことない?)
注文の経緯
始まりは再びOboistさん
画像引用:SusieSvelt×Oboist ④ | Mes favoris et musique
時は2020年。OboistさんとSUSIE SVELTのコラボ企画通称「オボイストブリーフケース」が始動します。
前企画(といえなくもない)Sewn×Oboistの「オボイストモデル」については、色々知っていた僕も、今回は純粋にブログでの発表で内容を知ることとなります。
そのブリーフケースを見た瞬間、ぼんやりと浮かぶ…
あれ?このブリーフのフォルムの…別のタイプの…
というわけで、漠然としたヴィジョンを天啓のように得た僕はOboistさんに連絡。SUSIE SVELTの鈴木さんとも初顔合わせを行うことになります。
SUSIE SVELT、職人鈴木さんとの顔合わせ
Oboistさんの仲介もあり、豊橋の中華料理店で初めて鈴木さんとお会いしたのは、その年の冬。
「職人」という職業がそのまま歩いているかのような鈴木さん。寡黙でありながら発せられる言葉の一つ一つからはものづくりに対する責任のようなものが感じられました。
Oboistさんを交えながら、オボブリ企画に対するお話をしたり、オボブリをベースに別のカバンを作ることが可能かという話をさせてもらったりしました。
つまり、この「オボブリベースに別のカバン」の話こそ、今回のクラッチバッグにつながるのですが、この段階ではまだ具体的な姿は浮かんではいませんでした。
まずは、オボブリ企画を完成させることやお店のその他の注文などもあったため、今後も打ち合わせをしていることでこの日は終了。
それでも、自分の中で「優先順位」は確実に上がっているのが分かった夜。月並みな言葉にはなってしまいますが「作り手」の顔が見えるというのは、大きい。こういった職人さんによるオーダーメイドにせよ、地域の野菜にしても。
Sewn×RENDOのイベントにて
時はたち2021年10月。
SewnとRENDOのイベントに、SUSIE SVELTも合同出店するということで、参加させてもらいました。
そこで聞いたのが、SUSIE SVELTもお店としてパラダイムシフトを遂げ、その在り方を変えようとしているタイミングであること。そこで、クラッチバッグをモデルに加えようということ。
話を聞くに、どうにもそのクラッチバッグが(例のエスパー的な)「ヴィジョン」に近しい。仕様などを相談し、それならば…と注文をする流れに。
Sampleができるころにまた訪問をする約束をし、この日は別れたのですが、具体的な仕様や注文納期の話をしたこの日の夜、興奮気味で妻に鞄のことを話し若干引かれたことをよく覚えています。
サンプルと正式な注文
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Sampleが出来上がったとの連絡を受け、SUSIE SVELTを訪問したのが12月。
そう言えばこれまでは、店舗以外での打ち合わせだったので、SUSIE SVELTを訪ねるのはこれが初でした。訪問してすぐにサンプルを拝見。
ずっとおぼろげだった頭の中のヴィジョンに輪郭がなぞられていく。
解像度を上げて細部まで質感を帯びていくような感覚。
持ち上げてみると、収まりが良く「自分の手」に「ある」重み。
あぁ、いい…ため息が出ちゃう。
実物の力はすごいですね。自分のものとして、SUSIE SVELTの鞄がある未来をはっきりと感じさせられました。
モデル名:professor(プロフェッサー)
実際納品されたものとは若干の違いこそあるものの、その完成度は伝わるかと思います。
打ち合わせの中でも、大きな変更など出るはずもなく、正式に注文。後は完成を待つのみ、となりました。
そして納品
錠前の到着が世界情勢の影響を受けたり、なんだり…なんかもありましたが、2022年7月についに納品。この記事を書くに至ります。
SUSIE SVELTを訪問し、サンプルではなく、自分のために生み出された鞄を手に取ったとき感動を覚えました。
鞄というのは、確かに靴やスーツと違って、所有者の体型に影響を受けないため「身体的な」注文の必然性というのは薄いのかもしれません。
でも、自分の頭の中のヴィジョンを形作り、現実のものとしてくれる職人さんがいる。言葉のやりとりを介してそのヴィジョンは文字通り、自分の手に収まる。
そして、一度身につけたら、寄り添ってくれているスーツや靴とは異なり、鞄は自ら「持つ」という能動的な「行動」をしなくてはなりません。
「持つ」と意志をもって「手を伸ばした」先にあるオンリーワン。
良いスーツや、靴は存在を消し持ち主と一体化します。それが矜持であるかのように。
鞄は対をなすかのように、「手」を常に求め、持ち主とは「別個」であり続けます。だから持ち主の「行動」を求めている。幼い子供?手のかかる恋人?
でも、そうやって(持つために)手を伸ばす度、何度も喜びや感動を能動的に味わうことができる。
これが、自分の「答え」なのかな。
もちろんこの考えは、個人的なものですし、感動も主観的なものです。しかし、とにかく自分の中で「鞄をオーダーする」ことへの一つの答えを得た瞬間がこの日であったことは事実です。鞄のオーダーメイドとは、「能動的な行動」を形作るものである。よし、納得。自分なりに。え、わかりにくい?飲み込んで!
納品されたprofessor
前置きが長くなりました。
いよいよ、こちらが納品されたprofessorです。
SUSIE SVELT / professor
細かい仕様については、また別途記事を書こうかと思うので、概要だけ。グリーンのシボ革に映えるゴールドの錠。「始まり」であったOboistさんのブリーフケースの影響を多大に受けています。
シンプルな造形に対し、緑革のひきつけるような深みとゴールドのアクセントが美しい。
イタリア製の錠前はバランス感覚が絶妙。
大きすぎず、控えめ過ぎず。また、クラシカルでありながら重厚過ぎないという塩梅。
真鍮の艶やかな光沢が、経年変化で鈍くなるころが楽しみです。
全体の大きさも、小脇に抱えたときに重すぎず、レディースのような軽さにはかからない絶妙な洒脱感。
先ほども述べた錠前のサイズが丁度よく、ここがもう少し大きくなると、鞄全体に「威厳」が伴いすぎてしまう。
サムホルダーを指に引っ掛け、さっと小脇に抱える…この計算された軽妙さにはこれくらいのバランス感覚が必須なようです。
このサムホルダーが、鞄単体としてはいいアクセントに、道具としては持ち手のバランスをとる機能にと、2度おいしい素晴らしいディテール。
あ、でも持った時の親指に(指輪のような)色気を与えてくれる効果もありそう…3度おいしい…か。
刻印は「R.F.T.B」
Hasten slowly. Run faster than beauty.
(ゆっくり急げ、美よりも早く駆けろ)
仕事で大事にしているジャン・コクトーの言葉から取って。図らずも、この美しいクラッチバッグにふさわしい言葉のような気がしています。
次回にもう少し、細かく見ていこうと思います。